Box 1F 先天異常――発生がうまくいかないと
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成体においてShhは幹細胞の増殖を制御しており、このシグナル経路に異常が起こると腫瘍形成につながる
発生における他の多くのシグナル伝達系と同様、Shhシグナルも遺伝子発現の変化を引き起こす
これらの重要なシグナル経路の詳細を明らかにすることは、多くの発生異常の原因を理解することにつながるが、shhはその良い例 症状の程度はさまざま
他方、軽い場合は、全農の左右の分離異常は軽度で、口唇裂、あるいは切歯数の異常(2ではなく1)がみられる Shhが脳の発生に関わっていることへの示唆
1990年代初期、マウス神経系の腹側正中部でshhが発現することが明らかにされたことに始まる 1996年、家族性全前脳胞症の患者で変異している遺伝子が同定され、それがShhであった 同じ頃、マウスでShh遺伝子を実験的に完全にノックアウトすると、前脳の左右への分離が起こらず、胚は正中顔面構造の欠失によって顔の真ん中に単一の眼を持つ単眼症となることがわかった これはヒトの全前脳胞症の最も重度なものと同じ症状
臨床遺伝学の研究者により、全前脳胞症のさまざまなケースについて原因遺伝子の同定が試みられ、異常の原因はShh経路のさまざまな遺伝子の変異によることが明らかにされた
すべての場合において原因はShhシグナル経路の異常であったが、影響を受ける遺伝子は場合によってさまざまだった
あるグループの患者の以上はShh遺伝子自身の変異によるものだったが、他の場合の原因遺伝子はShhの受容体をコードするもの(Patched)であったり、この経路の標的となる転写因子をコードするもの(Gli2)であった PatchedはSmoothenedというタンパク質とともにShhの受容体として働くが、Smoothenedの活性化にはコレステロールが必要であり、原因がコレステロール合成酵素の変異であった患者もいた Shhシグナル伝達は、大半の脊椎動物細胞に存在する動かない繊毛である一次繊毛と呼ばれる細胞表面構造で起こる したがって、一次繊毛の形成に異常のある患者においても、Shh経路の変異に特徴的な顔面形成の異常が起こる
ただし異常は軽微で、異常の同定には特別な三次元的計測が必要
このように、同様の症状を示すヒト疾患の原因遺伝子の同定により、重要な発生経路の遺伝子が明らかになることもある
Shh経路のタンパク質をコードする遺伝子の変異による顔面異常とよく似た異常が、環境要因によって起こることが知られている この物質はShhシグナル伝達の阻害剤
シクロパミンはSmoothenedの活性を抑えることによってShhシグナルを阻害する
このような特徴からシクロパミンは、Shh経路の異常を示す癌の治療薬開発の対象となっている